いつだって、お姫様になりたいと願ってるわ。
白馬に乗った、あたしだけを愛し、見つめてくれる王子様を、心から待ち続けている。
でも━━━━━
「魅録。あんた、夕べ『agape』に居なかった?」
「なんだ。可憐も来てたのかよ。」
「ええ。あそこのオーナーとは仲良しなの。ちょっと頼まれ事をされたから、顔出してたんだけど………」
果たして、それを尋ねていいのか迷った上で、好奇心に負けたあたしは言葉を続けた。
「隣に居た娘、誰?」
「………見たのか。」
魅録らしくない、ちょっと伏し目がちに顔を背ける。
やっぱり、NGだったのね。
彼女は『特別な誰か』で、そう簡単には教えないつもりだろう。
「いいのよ。別に………あんたが誰と居ようと、あたしには関係ないわ。」
「おいおい。変に勘ぐってくれるなよ。あれは………あいつはダチの妹だ。」
「妹?」
「そう。ちょっと相談に乗ってただけさ。男関係の、な。」
ポケットの煙草を探しながら、それ以上の深読みをさせないよう、真実を織り込む。
━━━━違うわ、魅録。
あの子はあんたの事が好きなはずよ。
だから相談したの。
恋愛沙汰に疎いはずのあんたに、わざわざ、ね。
「そう、悪かったわ。余計な詮索しちゃったみたいで。」
「いや……気にしてねぇよ。」
基本、男にモテる魅録だけど、当然女にとっても魅力的な男だから、その気になれば、そこそこ良い彼女が出来るはずなのに………まさか、まだあの王女様のことを想ってるわけじゃないでしょうね?
見た目とは違って、純情一途な男。
誰にでも優しくない分、惚れたらとことん、命懸けで守ってくれる。
…………あら、あたしったら…………まさか本気?
嗅ぎ慣れたマルボロの匂い。
全身に染み付いた油臭さ。
煙草を吸う男は嫌いじゃないし、
ところどころ鈍感な性格も悪くない。
「ねぇ。悠理ん家のクリスマスパーティ、行くんでしょ?」
「あ?あぁ………そのつもりだけど?」
「なら、迎えに来てくれる?もちろん、バイクで………」
「は?車じゃなくていいのかよ。」
「いいのよ。………この際、白馬じゃなくても我慢するわ。」
「へ?」
そうよ。
この可憐さんが本気になれば、落とせない男は居ないわ。
魅録、あんたも例外なんかじゃないわよ。
覚悟しておくことね。
告白は聖なる夜にいたしましょ。
嗚呼、神様。
願わくば、これが最後の恋となりますように。