クリスマスってさ。
昔は、飲んで食って、大勢で騒いで……ってのが当たり前だと思ってた。
皆でワイワイ、楽しけりゃそんでいい……ってね。
でも今は違う。
一番大切な人と、暖かい部屋のツリーの下で、密やかにプレゼント交換したり、クリスマス映画をソファで寄り添いながら観たり………そんな優しい時間を何よりも欲しいと願ってる。
あいつは何かと忙しいからさ。
こっちが色々考えてても、実現出来る可能性は半分くらい。
せめてプレゼントだけでも……って、こんな格好して部屋までやって来たんだけど、エアコンを入れて、勝手知ったるキッチンで甘めのカフェオレを作って飲んだら、直ぐに眠気が襲ってきた。
この調子だと、日が変わっちゃうかもな。
━静かな部屋で一人、恋人を待つ━
なかなか寂しいクリスマスイブじゃん?
昔のあたいなら考えられないよ。
きっと、我慢出来ない。
プレゼント抱えて壁に凭れ、床暖房のあったかさにウトウト。
次、目が覚めたら帰って来てるかな?
「メリークリスマス」の替わりに、甘いキスが欲しいな。
だけど、期待は見事裏切られ━━━
瞼を開けば、すっかり朝。
パジャマを着た状態で、いつの間にかベッドの中に居た。
せっかくの衣装も、椅子の上で丁寧に折り畳まれている。
━━━いつ帰ってきたんだろう?
人の気配を感じない部屋は、主が既に出掛けたことを示している。
並んだ枕は凹んでない。
となると、徹夜で出掛けたんだろうな。
サイドテーブルの書き置きを見ようと手を伸ばした時、見慣れぬ物体に目を奪われた。
左手の薬指。
キラリ、光輝くダイアモンド。
「うわっ………!」
付き合い始めて三年目。
一度もくれたことのなかった指輪が、今、明らかに左手を飾ってる。
━━━これって、これって……あれだよな!?
手を振って確かめるけど、消えやしない。
夢じゃなく、本物だ。
慌てて書き置きを読めば、そこには……
「今夜は寝ずに待っていてください。返事はその時に。」
くふふ………
返事なんか分かりきってるくせに!
気取っちゃって。
おまえが勝算無しで、こんな指輪、買うわけないじゃん。
「イエスだよ。清四郎………」
あたいが用意したプレゼントはそのまま机に置かれている。
中身は欲しがってた腕時計と一枚のメッセージ。
━━━そろそろ結婚しよーよ。
たったそれだけの………
今年のクリスマスは全てがスペシャル。
二人で踏み出す、新たな世界。
来年はもっともっと、幸せでありますように。
眩しいほどの朝日を見つめながら、あたいは指輪をそっと、右手で包み込んだ。