どんよりとした空。
東京の雪は湿っぽくて、コートの肩をじっとり濡らしてしまう。
───電話して迎えを呼べば良かったかしら?
イルミネーション輝く銀座の街中。
イブともなれば人混みに加え、車も多く、誰かを呼び出すのはちょっと面倒だった。
デパートは大混雑で、結局は馴染みの専門店に赴いたわけだけど、いつもは落ち着いた店なのに何故かカップルだらけ。
聞けば、有名なファッションモデルが好んで身に着けているとSNSで呟いたらしい。
あっという間に評判が広がり、クリスマスプレゼントに強請る女性が増えたそうな。
男は女に弱いもの。
愛しい彼女に甘えた声でお願いされたら、たとえ大枚をはたいても惜しくない。
女はそんな男を前に、あざとさを巧みに隠しながら、にっこり砂糖菓子のように微笑むのだ。
「…………タクシー掴まるかしら?」
どう見ても渋滞している大通りで、そんなものに乗るのは愚の骨頂。
結局、大きな荷物を手に歩くことを決めた。
冬物のワンピースとチェック柄のマフラー。それにファーの付いたショートブーツ。
小さなハートのイヤリングは今度の旅行に着けていこうと思う。
そういえば………この辺りで、可憐が新しいカフェを見つけたと言ってたかしら?
休憩するのも一つの手。
場所は確か────
「よぉ、野梨子。」
「魅録?」
銀色に光るヘルメットから覗く鋭い瞳。
雪を弾く黒革のジャンパー。
ジーンズに包まれた長い脚が、大型バイクを軽々と跨いでいる。
「買い物か?」
「ええ。少し買い込んでしまいましたの。魅録は?」
「俺は今から帰るとこ。千秋さんが帰国したっぽいんだ。相変わらず連絡するってことを知らねぇよな。」
「なら、急ぎませんと。」
彼は袖を捲り、腕時計を確認する。
いつものワイルドな仕草で。
「乗ってくか?」
「・・・・え?」
「どーせタクシー掴まんねぇだろ?」
後ろを見れば確かに人一人乗れるほどの空間はあった。
ただ、私はスカートを履いていて………生まれてこの方バイクに乗ったことがない。
高揚する胸と戸惑い。
そんな私を見透かしてか、魅録はヘルメットを外し、ニヒルに笑った。
「昔のおまえさんなら誘わなかったけどな。今ならイケるだろ?」
皮肉なのか本心なのか。
どちらにせよ、私の心は彼の後ろに乗りたがっている。
「荷物落とすなよ。それと………背中にしっかりしがみついとけ。」
コートとスカートの裾をまとめて掴み、恐る恐る跨げば、視界はいつもの1.5倍高く、ひんやりと湿った風が頬を撫でた。
「よし、行くぞ。」
「は、はい。」
革の匂いと街の景色。
新しい世界がどんどんと流れてゆく。
ああ、これはきっと、私へのプレゼント。
ホワイトクリスマスがくれた、小さな奇跡。