「タマー、フクー!」
どっこいったー?あいつら。
せっかく新しいオモチャ買ってきてやったのに。
ネズミが五匹も付いたクルクル回る棒を片手に、最近かなり太ってきた二匹を探す。
テラス側にあるお気に入りのソファには居ない。
クローゼットの中の鞄にも居ない。
「うーん。外行ったのか?こんな寒い日に?」
めぼしいところは全部回った。
母ちゃん達の部屋には絶対に行かない。
猫なりにあの悪趣味なインテリアを敬遠しているんだと思う。
「となると、あいつの部屋?」
そこの住人はいつも忙しくて、大学生だというのに月の半分は教授の手伝いで不在。
婚約者ほったらかしで、おっさんと過ごしているんだ。どうよこれ?
扉を開ければ、冷えた空気がこもっていて、思わず身震い。
こんなとこには流石に来ないかもなぁ………
「タマー、フクー?」
「んにゃぁ?」「にゃうん!」
ウソだろ。居た!
中に入ると、清四郎が選んだ椅子に置かれたYシャツにくるまり、こっちを向いている。
二匹仲良く、身を寄せ合いながら。
「…………おまえら、どんだけあいつが好きなんだよ。」
清四郎がこの部屋に住むようになって半年。
タマフクは何故か清四郎が大好きで、忙しそうにパソコンを叩いている時も、ヤツの膝を取り
合うくらい、離れたがらない。
「困りましたね………」
そう言いながらもまんざらじゃない様子。
結局、好きなようにさせてるんだから、あいつも割と好きなんだと思う。
「…………そっか。もう三日も顔見てないもんな。寂しいよな………」
あたいだって同じだ。
教授のお伴でどこぞの学会に参加している男と、かろうじてメールだけで繋がっている。
無造作に置かれたYシャツは、きっと出かける時に気に入らなかったのだろう。
慌てて着替えたに違いない。
椅子の前にぺたんと座り、タマフクと同じようにYシャツの中に顔を埋める。
洗濯したはずのシャツから何故か清四郎の体温を感じて、無性に寂しさがこみ上げてきた。
「あたいも………寂しいよ。」
「にゃうん……?」「にゃぁん?」
こいつらに慰められているなんて、あいつは想像もしていないだろう。
それとも少しは思い出してくれてる?
ぺろぺろと頬を舐められ、それでもこの二匹の存在が大きいと感じる。
帰ってきたら皆で寝ような。
広いベッドで身を寄せ合いながら。
優しく頭を撫でられながら。
目を瞑れば、そんな幸せな光景が瞼に浮かんで、あたいはいつの間にか眠りこけてしまった
。
・
・
・
「せっかく早めに帰宅したというのに、こんなところで。………………風邪ひきますよ。」
フワフワ
眠い
でも清四郎の声だ。
タマフクごと抱き上げられてるって判るのに目が開かない。
────おかえり、清四郎………待ってたよ。