それは悠理宛てに投函された一通の手紙。
───ご主人が、とある女に言い寄られてますよ。相手は海外事業部の才女。気をつけて。
剣菱本社の重役である夫に女の影?
新婚一年目の妻の目が鋭く光った。
清四郎とは二年間の熱愛交際の末、結婚に至ったのだが、その間、一度たりとも怪しい事案は見あたらなかった。
クールな見た目からは想像できないほど、悠理にベタ惚れな男。
それは仲間全員が断言できる真実である。
恋愛とは縁のない性格だった彼が、結局のところ堕ちてしまった相手が悠理なのだ。
本気になった清四郎は怖い。
あの手この手で仕掛けてくる罠に、悠理はあっさり引っかかり、気が付けば婚約まで結んでいた。(おおよその検討通り、百合子の仕業)
彼のような厄介な男に惚れられたら、正直ひとたまりもない。
いつの間にか清四郎が側に居る日常が当たり前となり、それが恋情へとたどり着くまで半年もかからなかったように思う。
提供される居心地の良さと甘ったるい台詞。
すっかり馴染んだその環境に、不安な要素は一筋も見当たらなかった。
「でもあいつ、モテるんだよなぁ…………」
大学時代も何となくそうだと思っていたが、清四郎は明らかに優良株だ。
男に妬まれるほどの資質とバックボーンを兼ね備えている。
そんな彼が悠理と付き合う前、数人から言い寄られていたことも知ってはいるが、結局はその誰とも付き合わず、いつもと変わらないメンバーで遊んでいた。
美童が「勿体ない!」と嘆いていたことを、つい最近のように思い出す。
「海外営業部の才女だってぇ?」
調べようと思えば簡単に手に入るデータ。
しかし悠理の胸は、下世話な週刊誌の記者の如く、ビッグなネタを仕入れた喜びに膨らんでいた。
────もしかすると、清四郎の弱みを掴めるかもしれない。
浮気の被害者であるかもしれないのに、そんな有り得ない方向の発想が生まれ、夫に土下座でもさせてやろうとほくそ笑む悠理は、やはりバカだった。
「よーし!こうなりゃ、あたい自ら探ってやる。」
新婚一年目の新妻は、余程暇を持て余していたのだろう。
探偵の真似事を始めると決めた。
勇み足で親友(魅録)に協力を求めるも、にべもなく断られ、結局は一人。
夫にばれないよう、それなりの変装で独自の調査に乗り出す。
「母ちゃん、悠理はあんな格好で何処いくだがか?」
「そんなこと知りませんわよ。………ほんと変わった子。」
仲良し夫婦は娘の奇行にも無頓着。
清四郎と悠理の間柄に、亀裂が入ろうはずもないと安心しきっていた。
それもそのはず。
長い付き合いの二人が交際を始めた時から、彼は娘にベタ惚れで、親の前でもその気持ちを隠そうとしたことがなかった。
万作達を安心させる意味もあったのだろう。
報告と同時、『結婚の意志』を伝えてきたのには、流石に驚かされたが───彼らしいと言えばそれまでである。
「暇なんでしょ。さっさと子供でも作ればいいのに。」
「んだ。わしも孫、抱きてーだがや。」
お気楽夫婦に見送られ、悠理を乗せた車は剣菱本社から程近くにある古びた喫茶店に到着した。
名輪の車はさすがに目立つ。
探偵には当然不向きだ。
まずは腹ごしらえをしようとメニューを広げ、卵サンドイッチとチキンバスケット、そしてクリームソーダを頼んだ。
いつ何時でも食欲が優先される悠理。
腹が減っては戦は出来ぬ───と、気を引き締める。
────しっかし、誰があんな手紙届けたんだ?
首を傾げる悠理は見当もつかない。
清四郎がいくらモテ男とはいえ、妻一筋なのは今更のこと。
それに義母である百合子の監視下で変な行動を起こせば、命すら危ういことは自明の理である。
誰だって命は惜しい。
清四郎だけでなく相手の女すら東京湾に沈みかねない。
そのくらいの作業、やくざと繋がる百合子にとって、朝飯前なのだから。
「…………だいたいあいつが変な女に引っかかるタマかよ。」
誰よりも“変な女”であるという自覚を棚上げし、悠理は呟いた。
何よりも確実なこと。
清四郎が自分に惚れているという事実。
叶うならば24時間側に置いておきたいほど、強く、深く、彼の想いは激しかった。
夕べも帰宅早々、疲れているはずの肉体で隅から隅まで貪られた。
まるで飢えた獣のような勢いと溺れそうになるほどの激しい愛情。
早めに帰宅した夜はいつもそうだ。
荒い息遣いの合間に告げられる愛の告白は、悠理を翻弄し、心も体も蕩けさせてしまう。
昔の清四郎からは想像も出来ない変化に、未だ戸惑うことは多いが、それでも夫の気持ちに嘘は無いと信じていた。
だからこそ───清四郎に限って浮気は有り得ない。
有り得ないけれど、万が一そんな事実があったなら……………
「あたい、どーすんだ?」
弱味を握って優位に立つ?
泣き喚いて、我が儘言い放題?
ここに来てようやく、悠理は自分が置かれた状況に気付いたのかもしれない。
底抜けにお馬鹿であるからして────
カランカラン♪
店の扉が開き、つい視線をそちらに投げると、そこには思いがけない夫の姿。
──── いっ?あいつ、こんなとこ何しに来たんだ!?
剣菱本社には洒落たカフェが二軒も入っていて、会社から離れた昭和感漂う店にわざわざ来なくてもいいはずだ。
それに今は就業時間内。
多忙な清四郎が足を伸ばす理由はない。
────まさか、愛人と待ち合わせ!?
思わず頭を下げた悠理の頭上に3トンの重りが落ちてくる。
勝手な思いこみが暴走し始めた合図だ。
窓際の席に座った清四郎がスマートフォンで時間を確かめる。
やはり待ち合わせなのか?
いつものようにブラックを注文し、軽く足を組むその姿は、女だけでなく、男の視線すら奪ってしまうほどの凛々しさだった。
ヤツは自分だけのもの────
そう感じるだけで、悠理の胸はいつもギュッと絞られ、満足感に打ち震える。
しかし、今はこみ上げる不安にとことんもやっとさせられていた。
もし………いや、絶対有り得ないけど………浮気してたらどうしよぉ…………
“海外事業部の才女”とやらが此処に現れたら、あの手紙の内容が正しいってことになるじゃん!
言い寄られてるだけでもムカつくのに………ほんとは完璧デキてたなんて笑い話にもなんないじょ!
弱味を握る───そんなつもりで気楽にやってきた自分を、悠理は思い切り殴りたくなった。
世の中、知らなくて良いことはたくさんあるのかもしれない。
とはいえ、隠れてコソコソ浮気されるのも大問題だ。
混乱する脳内。
悠理はもはや、目の前にある料理に一切手をつけていない。
二人席に座った清四郎の目的が一体何かを妄想し、破綻させ、1人でキリキリと胃を痛めていた。
カランカラン♪
さっきと同じように、店の扉が開く。
古めかしい喫茶店には似合わない、華やかな顔立ちの、そして魅力的なボディを持つ女性が桜色のスーツで入ってきた。
「すみません、お待たせしました。」
「いえ、僕も今来たところですよ。」
ガーン
がーん
Gaaaaaaan×100
ペコりと頭を下げたその女が、待ち合わせていたことは明らか。
清四郎の向かいに当然のように座り、「ホット一つ!」とマスターへ声をかけた。
狭い店内だからこそ、声はよく通る。
悠理の座る位置は観葉植物に阻まれていて、清四郎側から見えないはずだ。
────あたい、とうとう浮気現場を見てしまったのか!?
脚が小刻みに震える中、悠理はそれでも二人を盗み見た。
女は栗色の豊かなロングヘアをバレッタ一つで留めている。
スーツ姿が板についた女は確かに賢そうな顔をしていて、海外事業部の才女と言われれば疑うことは出来ない。
キャリアを感じさせる自信に満ち溢れた眼差し。
決して秘書などではない。
なぜなら、彼女には秘書のような慎ましさが見あたらないからだ。
運ばれてきた薫り高い珈琲を一口飲んだ後、その女は清四郎を真っ直ぐに見つめ、こう告げた。
「先日窺った通り、お忙しいのは重々解っています。でも………一日、いえ半日くらいの時間、融通してもらえませんでしょうか?」
「申し訳ないが、分単位のスケジュールが多くてね。なかなかに難しいんですよ。」
「でもっ………私の気持ちはお分かり頂けてるのでしょう?」
「…………ええ。知ってます。しかし………」
「私、毎晩、夢にまで見るんです。………想いが膨らみ過ぎて…………仕事に支障すら出てきています。」
「……………。」
これはどう見ても、どう考えても、清四郎への激しい恋心を隠さない女が、必死に夫を口説いている場面。
拝むように頼みこむその姿は、プライドの高そうな彼女には似つかわしくないが、それほど強い恋情を抱いているとも読み取れる。
泣きそうなほど赤く染まった頬。
華やかな顔立ちだからこそ、そそられるのだろう。
近くに座る男性客がチラチラと盗み見ていた。
悠理は奥歯を噛みしめ、拳を作った。
今にも飛び出したい気持ちでいっぱいだったが、どうしても清四郎の答えが知りたくて我慢する。
もし、
もし、
彼が彼女の気持ちを肯定し、それを受け入れたなら───
もはや気軽な探偵ごっこなどしている場合ではない。
清四郎の裏切りを想像すれば、心臓が握り潰されたような痛みを感じる。
焦り、不安、怒り、恐怖。
全ての感情が堰を切ったかのように溢れ出て、悠理の愛を黒く染めてしまう。
彼女は初めて、自分の心の狭さを目の当たりにした。
そして母、百合子に勝るとも劣らぬ嫉妬心を持ち合わせていたことを知り、驚きを隠せない。
慎重に耳を澄ませながらも、本当はトイレにでも逃げ出したかった。
店から飛び出したかった。
望まぬ答えを聞くことが怖くて怖くて仕方ないのだ。
もし、万が一にでも、清四郎があの女を受け入れたなら、自分でも想像するだに恐ろしい顔で、暴れまくってしまうだろう。
────清四郎はあたいのもんだ!あたいだけの男なんだ!!だから………絶対、絶対、突っぱねてくれよ!?
懇願するように力を込めた二つ拳を膝の上で打ち付ける。
“万が一のこと”など、あってはならない。
そんなこと許せるはずがない。
清四郎は自分だけのモノだ。
たとえ、一時的な気の迷いがそうさせたとしても、絶対に見逃せない。
「ふぅ…………」
清四郎が深く息を吐いた。
それは何かを決断したときの合図。
「わかりました。では今週の土曜日、何とか都合をつけましょう。しかし急な仕事が入ればそこまでですよ?」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
女は打って変わって目を輝かせる。
「場所は……そうですね。あまり人目のつかない………“ウェス○ィンホテル”で。詳しいことは追って知らせます。」
「はいっ!!嬉しいです!」
悠理は動きを止めた。
動きだけではない、呼吸も止めてしまった。
それでも心臓が動いているとわかるのは、こめかみにつたわる動悸音があまりにも煩いから。
─────うそ、ウソ、嘘。
これは嘘に決まってる。
清四郎が浮気するなんて嘘に決まってる。
夢、夢だ。タチの悪い悪夢だ!
早く目覚めなきゃ───あたい、このまま死んじゃうよぉ!!!
動きを止めているのに、二つの目から涙が溢れ出してくる。
ポロポロと落ちる水滴が、まだ手の付けていないサンドイッチを湿らせ、見るも無惨な姿に変化させる。
さっきまでの食欲は急下降。
呼吸すら忘れているのだから当然かもしれない。
「では、失礼します。」
頬を染めた女はそそくさと席を立ち、何度も頭を下げ、店から出て行った。
残された清四郎がゆったりと珈琲を啜る様子は、いつもと何ら変わらぬ落ち着きっぷりである。
────もしかして、こんなこと、初めてじゃないのか?
昔からモテる男だと知っている。
男も女も惹き寄せる魅惑のフェロモン。
夫となった今も一歩社交界に出れば、有閑マダムからの声掛けはひっきりなしだ。
遊び慣れた女達を軽くあしらうその姿に、場数の多さを感じたことも、確かにあった。
───妻として、危機感を抱かなくてはならなかったのか?
清四郎の愛を疑ったことはないし、不安になるような愛され方もしていない。
毎晩のように貪られる身体には、彼の執着が紅い痕となって入れ墨のように残っている。
浮気──────
器用な男が今までその痕跡を残さずにやってきたのだとしたら?
悠理はそこでようやく武者震いをした。
そして眼鏡を外し、ナプキンで涙をごしごしと拭うと、またしても夫にピントを戻す。
────もしあいつが本当に浮気するつもりなら、今ここで修正しなくちゃならない。
たとえ夫婦関係が終わりを迎えようと、このまま何事もなかったように帰れるはずはないんだ。
そう覚悟を決め、立ち上がろうとした瞬間───
「いつまでコソコソ覗いてるんです?」
「──────え?」
清四郎がゆっくりとこちらを振り向いた。
観葉植物の隙間から覗く穏やかな笑顔は、今朝見送ったときと同じもの。
咎めるわけでもなく、まるで挨拶をするかのような表情で、陰に潜む悠理を見つめた。
そんな夫に悠理は慌てて、椅子から立ち上がる。
「き、き、気付いてたのかよ!?」
「…………そりゃまあ。ほら、コレがありますし。」
近づいてきた夫に見せられたのはスマホの画面で───
そこにはGPS信号が追跡出来る、お役立ちアプリが起動されていた。
「そ、それ………」
「覚えてませんか?二年前の誘拐の時、腕時計とピアスに発信器を埋め込んだことを。」
「…………覚えてる。」
「僕はあれから頻繁にチェックするようになったんですよ。大いなる不安は仕事に支障を来しますから。」
脱力する悠理の隣に腰を下ろした清四郎は、涙に濡れた瞼を優しくその指で拭う。
「…………何故泣いてた?」
「だ、だって!!………おまえ、あの女と浮気の約束してたじゃん。」
「は?」
「とぼけても無駄だぞ!全部聞いてたんだからな!」
周りに聞こえるような叫びで詰るも、心は引き裂かれんばかりに辛い。
本当は「嘘だよ」と言って欲しかった。
「ドッキリです」と笑って欲しかった。
清四郎の言葉なら、きっと信じることは出来るのだから。
「あのねぇ………おまえは、なんて誤解をするんです。彼女は違いますよ。彼女は…………」
「愛人にするつもりなんだろ!?美人だもんな!あたいよりも色っぽいし、頭も良さそうだし───さぞかし楽しめるだろうよ!!」
「悠理!!」
そこで初めて清四郎の顔色が変わる。
赤みを帯びた、嫌悪感剥き出しの顔を悠理に見せつける。
反射的に身を竦ませた悠理は、再び涙をこぼし始めた。
こうなるともう、泣き虫な彼女は止まらない。
「うぇぇぇんん!」
子供のような泣き声を店内に響かせれば、慌てた店員がおしぼりを持ってやってきた。
清四郎はお礼と共にそれを受け取り、やれやれと溜息を吐く。
「彼女はね。豊作さんに恋してるんですよ。」
「ぐすっ………ぐしっ………に、兄ちゃん?」
思いがけない言葉に悠理は目を見開く。
「そう。片思い歴一年。本気で妻の座を狙っているそうです。しかし僕はお義母さんから“変な女を近づけないように”と厳命されてましてね。なかなか接点を作れずにきたんですよ。」
夫から聞かされる真実は悠理の涙を簡単に止めてしまった。
「そ、そなんだ………あたいてっきり………」
「このバカ。早とちりもいい加減にしろ。」
事の顛末をこっそり見ていた店員もようやく胸を撫で下ろし、ヒヤヒヤしていた客もすっかりぬるくなった珈琲を旨そうに啜った。
差し出されたおしぼりで鼻をかんだ悠理は、恥ずかしそうに身を縮め、「えへへ」と笑うしかない。
どうにも居たたまれない状況で、今すぐにでもここから逃げ出したかった。
「おまえはどうやら、僕を“浮気者”と認識しているようですね。」
「ち、違うよ!」
「どう違うんです?そんな下手な変装までして。」
「それは…………あたい宛てに手紙が届いたから……ちょっと気になって………」
「手紙?」
掻い摘まんで話をすれば、清四郎の顔が再び曇る。
「心当たり、あるのか?」
「いえ。……………いや、あると言えば………」
「なんだよ!言え!」
百合子譲りの剣幕で行われる追及には逆らえない。
「………海外事業部にわりと優秀な社員が居まして───先ほどの彼女と同期なんですが、所謂ライバル関係のようで…………」
「ライバル……………」
普段鈍い悠理も、今回ばかりは直ぐに気付いた。
相手を陥れる為に弄した策。
剣菱の娘に届ければ騒ぎになると踏んだのだろう。
「そいつが………もしかすると、おまえのこと好きだったり?」
「………まぁ、そう言ったアプローチが無かったと言えば嘘になりますね。」
「やっぱり!!」
新たな女の影。
悠理の頭は再びマグマを生み出した。
「でも…………その社員は…………」
「なに?」
言いよどむ夫の胸倉を掴み、激しく問い詰める妻。
またしても小さな喫茶店の中に不穏な空気が広がる。
「男性です。」
「…………へ?」
「だから、入社五年目、アメリカ帰りの男性社員なんです。」
水を打ったような静けさが辺りに漂う。
水のお代わりを持っていこうとしていた店員も、完全に動きを止めた。
「………………おまえ、まだ男にモテてんの?」
「不本意ですが………」
「…………………そっか…………男か。」
悠理はあっさり落ち着きを取り戻し、完全にアイスが溶けきったクリームソーダを一気に啜った。
胸に広がる安心の事実。
清四郎が男に惑わされることは決して無い。
恐らくはその男性社員が、想い人にまとわりつくライバルを牽制する為、嫌がらせの手紙を送ったのだろう。
しかし彼女のターゲットはもちろん豊作。
彼の杞憂は全くの無駄だったのだ。
「安心したようですね。」
「………うん。」
「たとえ冗談でも、浮気なんかしませんよ。」
「あたいのこと、愛しちゃってるから?」
「そりゃもちろん。───にしても、おまえがこんなにも激しい嫉妬をしたのは初めてじゃないですか?」
フッと微笑む清四郎が喜んでいるとわかり、悠理の頬は赤く染まった。
「………ばぁたれ。…………奥さんなんだから当然だい。」
「悠理………」
仲の良い夫婦は互いに見つめ合い、仲直りのキスをする。
もちろん喫茶店の中は桃色の空気に包まれ、居たたまれなくなった客はそそくさと店を後にした。
その後─────
清四郎の計らいで、豊作との時間を手に入れた女は、トントン拍子で交際に漕ぎつける。
ゴールインを目指すも、そびえ立つハードルはエベレストよりも高く、彼女は思わぬ苦戦を強いられることとなった。
そしてもう一人───
有能な男性社員は、妻に不安を与えたという個人的な理由で、遥かアラスカの地へ飛ばされてしまう。
勤務期間は約五年。
彼が本社に戻る頃にはきっと………己のしでかした過ちを海より深く反省していることだろう。
おしまい